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にせんどうか

二銭銅貨

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,143 字 · 34 页

青空文庫

それも、既に給料袋に入れられた分や、細い紙幣には手もつけないで、支那鞄の中の二十円札と十円札の束丈けを持去ったのである。損害高は約五万円であった。

色々調べて見たが、結局、どうも先程の新聞記者が怪しいということになった。新聞社へ電話をかけて見ると、案の定、そういう男は本社員の中にはないという返事だ。そこで、警察へ電話をかけるやら、賃銀支払を延す訳には行かぬので、銀行へ改めて二十円札と十円札の準備を頼むやら、大変な騒ぎになったのである。

彼の新聞記者と自称して、お人よしの支配人に無駄な議論をさせた男は、実に、当時新聞が、紳士盗賊という尊称を以て書き立てた所の大泥坊であったのだ。

さて、管轄警察署の司法主任其他が臨検して調べて見ると、手懸りというものが一つもない。新聞社の名刺まで用意して来る程の賊だから、なかなか一筋繩で行く奴ではない。遺留品などあろう筈もない。ただ一つ分っていた事は、支配人の記憶に残っているその男の容貌風采であるが、それが甚だ便りないのである。というのは、服装などは無論取替えることが出来るし、支配人がこれこそ手懸りだと申出た所の、鼈甲縁の眼鏡にしろ、口髭にしろ、考えて見れば、変装には最もよく使われる手段なのだから、これも当てにはならぬ。