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ごえもんとしんざ

五右衛門と新左

国枝 史郎

「大衆文芸 第一巻第一号」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,405 字 · 21 页

青空文庫

おお夫れから最う一つ、是非とも何か一つの事を、熱心にお考え下さいますよう。他へお心を移しませぬよう。……では、ごめん下さいますよう」

襖を開けると退出した。

後は一座寂然となった。

×

併し私は忍術に就いては深い研究をしていない。で、五右衛門と十人衆とが、どんな塩梅に戦ったものか、どうも遺憾乍ら記すことが出来ない。いずれ素晴らしい術比べが、闇中で行われたことだろう。

とまれ其の結果、伏見城方では、十人の人間が殺された。そうして大閤秀吉は、曽呂利新左衛門の頓智によって、あやうく命を助かった。

小笠原民部一人を抜かし、後の九人の忍術家達は、二時間ばかりの其の間に、五右衛門の精妙な法術のため、屈折されて了ったのであった。そこで五右衛門は城中大奥、秀吉の居る隣室まで、堂々と入り込んで来たそうである。

忽然その時秀吉の耳へ小供の泣声が聞えて来た。火の付いたような泣声であった。しかも秀頼の声であった。

「や、若が泣いている」

ハッと思った一刹那、秀吉の体はズルズルと、一尺ばかり前へ出た。何者かの力が引き出したのであった。「うむ、しまった!」と気が付くと共に、小供の泣声がハタと止んだ。