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ごがつのゆいぶつかん

五月の唯物観

寺田 寅彦

「大阪朝日新聞」1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,225 字 · 9 页

青空文庫

そこで今いちばん適当なHの量を仮にKだとすると、上式をKに等しいと置いたときにその式を満足するような時間tに相当する時季がその人のいちばん気持のいいときになる勘定である。

もしも H0 - A がKより大きいような人ならばその人は年中怒りっぽくまた憂鬱になりやすいし、また H0 + A がKより小さい人は年中元気がなく悄気ていることになる。この仮説を応用して自分の場合に当てはめてみると若い時分にはH0もAも相当大きくてしかも H0 - A がほぼKに等しかった、しかし年を取ってある時期以後H0が著しく減って H0 + A = K に近くなったという風に解釈すると一応の説明がつきそうである。もっともH0がだんだんに減って来たとすると、中年ごろに一度 H0 = K' 換言すれば夏と冬とがちょうど快適だという時期があったとしなければ勘定が合わぬことになるが、しかし実際は上のような簡単な式ですべてが現わされるはずはないので、例えば過剰や過少が寒暖の急な変り目だけに起り、そういう時期だけにそれが有効に心情を支配するのだとすれば、それでも一応はこの困難が避けられるであろうと思われる。