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いぶせますじによせて
井伏鱒二によせて
小山 清
「新潮 第五十巻四号」新潮社、1953(昭和28)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,419 字 · 11 页
――村山十吉!
『…………』」
着服した五円の金と、紛失したステッキと。そしてこの描写の相似。
「晩春の旅」は往きの汽車の中がおもしろい。井伏さんは窓外の山桜を見ようとして、汽車の窓をあけ、目に塵を入れてしまう。そして同車している、目の塵を取る名人だという女から塵を取ってもらうのだが、そこのところが、なんともおかしい。井伏さんの目からは塵のほかに、黄色いドレスの切れっぱしなどが出てきたりして、「あなたは過去において、黄色いドレスの婦人の胸に、顔を押しつけたことがあったでしょうが」などとからかわれる。私は読んでいて笑ってしまったが、さて自分だったら、目の中からどんな過去の塵を出させるかと考えてみて、まずはじめに思い浮んだのは、私の幼いときの子守が私の涙を拭ってくれたハンカチの切れっぱしであった。読者は私を甘ちゃんだと思うだろうが、まあそういわずに、読者もためしに誰かに目の塵を掃除してもらってごらんなさい。思わぬ幸福の拾いものをするかもしれないから。
(「新潮」昭和二八年四月号、原題「幸福論(十)―井伏鱒二によせて」)