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いぶせますじによせて

井伏鱒二によせて

小山 清

「新潮 第五十巻四号」新潮社、1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,419 字 · 11 页

青空文庫

たとえば、器量よしのくせに、自分のことをおたふくだと思い込んでいる女がいるとしたなら、(そんな女には、まだお目にかかったことはないけれど)その女には、いつまでもそのように思わせて置きたい。いや、あなたはどうして、おたふくどころじゃないなどと余計な口をきいて、当人が自分は美人だと思いはじめたなら、それこそこの世の中から美しいものが減る勘定になるだろうから。それとこれとは話は別だが、私はこれから井伏さんについて漫然と書こうと思っているのだが、もとよりいい加減のものであり、でたらめであるのだから、読者もそのつもりで読んでほしい。

さて、「点滴」という文章だが、読者は読んで、それにしても井伏さんも少しこだわるようだと思うかもしれない。井伏さんはこだわる人である。人誰かこの世に生れて、しかしてこだわらざらんやである。偽善者だけが、人前だけこだわらないような顔をして、口を拭っている。南河内川に釣りに行った話を書いた文章があるが、それを読むと、井伏さんは始めから終りまでこだわっている。それも一見つまらないようなことにこだわっている。ある雑誌の座談会で、釣りについて自分が喋ったことを、誤記されていることに対して、とても気にしている。