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きょうかのこむすめどうじょうじ
京鹿子娘道成寺
酒井 嘉七
「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页
娘道成寺の開幕時間は、さしせまっておりました。医師の手当によりまして、師匠の癪も、いいあんばいに納ったようでございました。しかし、そうと申しましても、あと数分の後にさしせまった、所作事の舞台に出られる筈もございません。そうした訳で、私が師匠の替りに、立三味線を弾かせて頂くことになったので御座いました。
私が、自分の部屋を出ます時にも、師匠の三味線と撥は私が置いた通り、床の間に御座いました。しかし、この撥を、若し、誰かが、私の出た後で持ち去ったといたしますれば、それは、一座の方か、私たち、鳴物連中の中の誰かに相違ございますまい――それと申しますのも、私の部屋へ参ります迄には、幾つもの楽屋部屋の前を通りますので、見なれないお方でございますれば、すぐに、誰かが、胡散くさい人が通る――という風に、注意し、後をもつけるでございましょうから。それに、あの、私の楽屋部屋は、外側が小屋の裏通りになってはおりますものの、窓が一つしか御座いませず、その窓には、人の頭もはいらないほどな棒頭がはまっておりますので、そうしたところから、外来の人が侵入しあの撥をもち去ったとも考えられないのでございます。