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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

――半四郎師匠は、いまも申しましたように、

「綱に、綱に……」

と、申されながら、冠っていらっしゃる金烏帽子を、はね上げなさったのでございました。私は、つと、にじりよって、それを拾い上げたのでございますが、その瞬間に、思い出したことが御座いました。それは、落ちた烏帽子を後見が取りあげて、綱にかける型があるのでございます。これは、なんでも、ある名高い江戸役者が、この踊りを、おどっていらっしゃいました時に、烏帽子をはねた勢があまり強く、いきおいあまって、烏帽子が後にとび、綱にからまったのだそうで御座います。ところが、何がどうなるか、分らないもので御座いまして、これがまた大変な評判になり、それが、一つの異った型になったのだ、と申すのでございます。しかし、こうした偶然は、つねに舞台でくりかえすことは、勿論のこと、不可能でございますから、この型を踏襲されていた江戸役者の方々は後見にいい付けて後にはねた烏帽子をわざわざ綱にかけさせていた、――というので御座いました。私は、こうした事を思い出し、師匠の、

「綱に、綱に……」

と、申されたのは、私にそうした事を命じていらっしゃるのだ――と考えまして、その通りにいたした事でございました。