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きょうかのこむすめどうじょうじ
京鹿子娘道成寺
酒井 嘉七
「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页
(い)私の師匠、杵屋新次さまの場合では、師匠が開幕前まで持っていられた、象牙の撥が、殺人の現場に残されておりましたため――そして、開幕直前の急病が、疑問の目で見られたため――でございましょうし、
(ろ)杵屋新三郎さんは、師匠の撥をご自分のお部屋に運ばれたため――言葉をかえて申しますと、殺人に使用された兇器を、最後に手にしていられた方であるため、
そして、
(は)の名見崎東三郎さまは、岩井半四郎の後見として、被害者に、誰よりも一番近く位置していたため――でございましょう。
しかし、それにいたしましても、もし、このお三方を、幾分でも、疑いの目をもって見るといたしますれば、その当時舞台の上で、演奏されていた、唄の方々、三味線を弾いていられた方々、そして、所作の舞台にいられた、役者の方々も同じように、お疑い申さねばなりますまい――いや、その上に、あの時、河原崎座の中にいられた、千にも近い、見物衆をも、同じほどに、お疑いいたさねばなりますまい。
あの殺人は、間口十五間の檜舞台の真中に伏せられた、造りものの鐘の中で行われたので御座います。その、造りものの鐘の外部にさえ、手を触れた方は、誰人もいないのでございます。