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じんたいかいぼうをみるのき
人体解剖を看るの記
海野 十三
「シュピオ」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,432 字 · 17 页
医師はそのときメスを上の方へ戻して、胸のところを丁寧に開いた。そして左右の肋骨の上を、メスでもってスーッスーッと二本の筋を引いた。それから手でもって、胸骨を、まるで蓋をとるような塩梅で外した。するとなかからは、肺臓と心臓とが顔を出した。後から考えてみると、このとき胸腔と腹腔との中は真赤だったのだ。しかし実際このとき僕は、すこしも赤いということを感じなかった。赤いのが当り前に感じられた。というか、それとも何もかも、あまりに赤くて、全体的な赤さが、僕の赤に対する感覚を麻痺させてしまったという方がいいかも知れない。
この屍体が、解剖学で習ったと同じような内臓を持っている当り前さ、それから医師が肋骨をまるで障子でも外すような手軽さで外したことの可笑し味と、この二つが僕の心に印象を植えつけただけであって、愕くことは一向になかった。
解剖医自身はもちろん少しも愕いてなどいない。
彼はまず盛んに長い腸を改めた。まるで網を漁夫が拡げてみるのと変りがない。それから彼は糸を出して、腸の一方を結び、そして切断した。それからメスを腸の切口に入れてスーッと開いていった。