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じんたいかいぼうをみるのき

人体解剖を看るの記

海野 十三

「シュピオ」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,432 字 · 17 页

青空文庫

もちろんそれは血液だった。

医師は血液をすくっては、バケツのなかに明ける。それを永い間くりかえした。柄杓をつけるたびにゴボッという音がする。そしてバケツにそれをあけるたびにサーッという音が聞えた。それは静かな室内に於ける只一つの音響であったためか、嵐のすぎさるような大きい響をたてた。僕は一生懸命に怺えていた。

バケツには、かなり多量の血液が溜ったらしかった。結局この柄杓は一ぱい何シーシーという容量が決っていて、何ばいの血液がすくいだされたから、屍体の血液の量は尋常であったか、それとも尋常でなかったかが判定せられるのであろう。

ここで解剖がたしかに一段落したように思った。

医師は助手をよんだ。助手は紙と鉛筆とをもって、医師の近くへ寄った。医師は彼にだけ聞えるような低い声でもって、なにか云うのであった。すると助手が鉛筆をうごかしてしきりと紙の上に記入した。いつしか医師の手には、キャリパーが握られ、内臓などが一々寸法をとられていた。

それも終った。

すると医師は、屍体の頭の方に廻った。そこに切り彫まれている脳を両手で下から持ちあげて、頭の中に押しこんだ。