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じんせいせいかいいん

人生正会員

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,238 字 · 23 页

青空文庫

「小野寺君、社長は?」

と言って、その直後広瀬さんが秘書室へ入って来た。

「まだいらっしゃいません」

「丁度好い。面白いことがあるんだよ。俄か普請の大伽藍がグラつき出した」

「何のことですか?」

「社長の道心さ。築地の銀トンボという待合から電話がかゝって来た。この間数珠を置き忘れた人がありますが、社長さんじゃないでしょうかと言うんだ」

「ハッハヽヽ」

「紫水晶のだそうだ。社長は何うだね? 数珠を持っているかね?」

「さあ。気がつきませんでしたが、そう言えばこの二三日持っていなかったかも知れませんよ」

「お預りして置きますから、そう申上げて下さいと言うんだ。社長だろう、屹度。この間から会が続いたようだから」

「社長に相違ありません。酔っ払ったんでしょう」

「矢っ張り飲むんですか?」

「般若湯の方は坊さんも飲むからと言って、制限を加えません。ハッハヽヽ。俄か普請の大伽藍とは、広瀬さんも皮肉ですな」

「ハッハヽヽ」

「利きますよ」

「内証だぜ」

「含んで置きます。ところで数珠のことはあなたから仰有って下さい」

「僕は駄目だ。基督信者という看板の手前、仏教の名僧に向って、待合へ数珠をお忘れになりましたかと訊くのは皮肉になる」