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じんせいせいかいいん

人生正会員

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,238 字 · 23 页

青空文庫

お疲れでございましょう」

社長夫人逝去以来、家の子郎党の僕達夫婦は兎角忙しい。妻は社長邸へ通勤して、采配を振っている。

「晩くまで有難う。坊さんが帰ってから又やったよ。自分一人でやった。お念仏は気が落ちついて好いものだ」

「御奇特のことですと坊さんも褒めていました」

「坊さんは兎に角、池の蛙に褒められた。俺が念仏をやると、池の蛙が喜んで、ギャア/\と鳴き出すんだ」

「はゝあ。妙ですな」

「俺の郷里ではギャア/\念仏ということを言うから、蛙も念仏をやるのかも知れない」

「社長」

僕は蛙で思い出した。

「何だい?」

「この頃の蛙は新蛙でしょうか?」

「新蛙?」

「はあ。今年生れた蛙でしょうか?」

「そうだろうさ。池一杯いるから」

「するとまだ尻尾がついていますか?」

「尻尾があれば、お玉杓子だよ。鳴くようになれば、一匹前の殿様蛙だ」

「成程。矢っ張りそういう理窟でしょうな」

「詰まらないことを感心している」

普段の社長はこれほど余裕がない。詰まらない話をすると憤ってしまう。単に言い間違いをしても機嫌が悪い。しかし昨今はお念仏の修業で気が練れているのらしい。

「社長、こゝに三年も鳴いていながら、尻尾の取れない蛙がいますよ」