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じんぞうにんげんじけん
人造人間事件
海野 十三
「オール読物」文藝春秋、1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,654 字 · 30 页
(――なにか、血腥い事件が起ったのだろう。殺人事件か、それとも戦争か)
さっき喫茶店リラで、紅茶を啜りながら聴くともなしに聴いたラジオドラマは、将来戦を演出しているものだった。東京市民は空襲警報にしきりと脅え、太平洋では彼我の海戦部隊が微妙なる戦機を狙っているという場面であった。戦争は果して起るのであろうか。
帆村理学士は濠端に出た。冷い風が横合からサッと吹いてきた。彼はレーンコートの襟をしっかり掻きあわせ、サンタマリア病院の建物について曲った。
病院の大玄関は、火葬炉の前戸のように厳めしく静まりかえり、何処かにシャーリー・テンプルに似た顔の天使の微かな寝息が聞えてくるような気がした。道傍には盗んでゆかれそうな街灯がポツンと立っていて、しっぽり濡れたアスファルトの舗道に、黄色い灯影を落としていた。
そのときだった。一台の自動車が背後の方から勢よく疾走してきた。帆村は泥しぶきをかけられることを恐れて、ツと身体を病院の玄関脇によせた。
すると自動車は、途端にスピードを落として、病院の玄関前にピタリと停った。彼は見た。自動車の中には、中腰になって、洋装の凄艶なマダムとも令嬢とも判別しがたい美女が乗っていた。