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にんげんさんすいずまき

人間山水図巻

吉川 英治

「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页

青空文庫

の巷にさまよわせていた。

蕭照もそのなかの一人だった。

彼は、徽宗皇帝の全盛時代からの御林軍の一将校であったから、その拠って来た禁門の守りは、天地が覆えろうと易るものでないようにおもいこんでいたものだった。ところが、一朝にして宋は金に亡ぼされ、四都悉く金のものとなって、北宋の旧軍官人たちは、生きるだけの身をかくすにさえ、この大陸がせまい世になってしまっていた。

『まだここに盗み残されている俺というからだだけがある……』

窮乏もこうまでになると――これより下には落ちようはないという――肚のきまった自嘲が彼を落着き払わせていた。

河南の都から北へ北へと落ちのびてくる途中何回となく土匪や流賊に襲われて、家財も家族も身に着けていた物も、すべてを剥ぎとられてしまい、残ったのは、裸に近い一箇の肉体だけであった。

部落を見かけると、何とか小屋でも建てて耕作する一畝の土地でもないかと落着き場所を求めたが、ぜいたくな望みで、小屋はおろか、その時々の胃をしのぐ一握りの黍も犬の肉すらもありつくのに困難だった。

『隣りの県へ行ってごらんなさい』

と親切に教えてくれた農夫もあった。