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にんげんいす
人間椅子
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,920 字 · 30 页
あれを幻というのでしょうか。心に思うままが、あんまりはっきりと、眼の前に浮んで来ますので、私は、若しや気でも違うのではないかと、空恐ろしくなった程でございます。
そうしています内に、私の頭に、ふとすばらしい考えが浮んで参りました。悪魔の囁きというのは、多分ああした事を指すのではありますまいか。それは、夢の様に荒唐無稽で、非常に不気味な事柄でした。でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。
最初は、ただただ、私の丹誠を籠めた美しい椅子を、手離し度くない、出来ることなら、その椅子と一緒に、どこまでもついて行きたい、そんな単純な願いでした。それが、うつらうつらと妄想の翼を拡げて居ります内に、いつの間にやら、その日頃私の頭に醗酵して居りました、ある恐ろしい考えと、結びついて了ったのでございます。そして、私はまあ、何という気違いでございましょう。その奇怪極まる妄想を、実際に行って見ようと思い立ったのでありました。
私は大急ぎで、四つの内で一番よく出来たと思う肘掛椅子を、バラバラに毀してしまいました。そして、改めて、それを、私の妙な計画を実行するに、都合のよい様に造り直しました。