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にんげんかい

人間灰

海野 十三

「新青年」博文館、1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,345 字 · 33 页

青空文庫

今夜こそ、もし何かあったら、それこそ彼は全身の勇を奮って、西風に乗ってくる妖魔と闘うつもりだった。

丁度午後十一時半を打ったときに交番の前を、工夫体の一人の男がトコトコと来かかった。彼の男は、立番の巡査の姿を認めると足早やにスタスタと通りすぎようとした。

「コラ、待てッ――」

と巡査は叫んで、怪漢めがけて駆けだした。

長身の痩せ型の男は、巡査の大喝を聞くと、そのまま足を停めた。そして難なく腕を捕えられてしまった。

「お前は今ごろ何処へゆくのか。ちょっと交番まで一緒に来い」

男は素直に腕を取られたまま、駐在所の方へ引張られた。巡査は帽子の下から光る一癖ありげな怪漢の眼から視線を外さなかった。しかし駐在所の灯の所まで引いてきたときには、腰を抜かさんばかりに駭いた。

血! 血!

怪漢の帽子といわず、襟をたてたレンコートの肩先といわず、それから怪漢の顔にまで夥しい血糊が飛んでいた。大した獲物だった。

「神妙にしろッ。この人殺し奴!」

腕力に秀でた巡査は、怪漢の手を逆にねじあげると、忽ち捕縄をかけてしまった。

「乱暴をするな、なぜ縛るんだ」

と怪漢は眉をピリピリ動かして云った。