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にんげんはんえい

人間繁栄

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,038 字 · 38 页

青空文庫

その後ろから、洋造が伯父に借りた海水着一つで飛び込んでいった。鮠の子が方々に泳いでいた。

「綾子さんにこれが一匹でもつかまったら、何でも望み通りのことを聞いてあげますよ。」

「どんなことでも。」

「ええ。」

水を乱さずにそっと狙い寄ったり、不意に馳け出して追っかけたりしたが、小鮠はすいすいと身をかわして平気な風をしていた。洋造と静子も一緒になって追い廻したが、一匹もつかまらなかった。帽子の縁まで水だらけにして、すっかり疲れきって、三人は熱く焼けている河原の上で休んだ。

清いさらさらとした流れと、円い小さな石の河原とに、ずっと下の方まで、子供や大人の麦稈帽が点々と散らばっていた。

その河原の上を、月の晩には、昼間の嬉戯を忘れはてた落付いた散歩をした。静子と綾子とはよく歌をうたった。静子の声は細かな顫えを帯びており、綾子の声は張りのある朗かさを帯びていた。

「月の光で見ると、津田さんは何だか憂鬱そうにお見えなさるわ。」と綾子は云った。

洋造は苦笑しながら、黙って二人の傍について歩いた。

「綾子さんはあなたのことを……。」

静子が云いかけるのを、綾子は駄々っ児のように、首と手とを打払って止めようとした。