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ひとだまのひとつのばあい
人魂の一つの場合
寺田 寅彦
「帝国大学新聞」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,928 字 · 6 页
もっとも、いかなる場合にいかなる方向に動くかという点についてはまだ充分詳しいことを調べたわけではなかったが、ともかくも、実際はほとんど同時に光る光帯が、場合により右から左へ、あるいは左から右へ動くように見えうるという事実がある。これが現在の問題に対して一つの有力な手がかりになるのである。もっとも火花の場合には光帯が現われるとすぐに消えるのに反して現在の場合では点火したきりで消えなかったとすると少し事がらがちがう。それで、後の場合でも同様な錯覚が生ずるかどうかは別に実験を要するわけである。
とにかく、これは一つの可能性を暗示するだけで実際はどうだかわからない。
もう一つの可能性がある。前記の浴室より、もう少し左上に当たる崖の上に貸し別荘があって、その明け放した座敷の電燈が急に点火するときにそれをこっちのベランダで見ると、時によっては、一道の光帯が有限な速度で横に流出するように見えることがある。これはたぶんまつ毛のためやまた眼球光学系の溷濁のために生ずるものかと思われる。それで、事によると「火の玉」の正体がこれであったかもしれないとも思われる。しかしこれだとすると、たいていは光芒射出といったようなふうに見えるのであって、どうも「火の玉」