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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
山岸主税がこっちへ背を向け、首を垂れて襟足を見せ、端然として坐ってい、その彼の膝のすこし向うの、少し古びた畳の上で、淀屋の独楽が静かに廻っていた。また何か文字でも現われまいかと、今日も熱心に淀屋の独楽を、彼は廻しているのであった。
「あッ!」と主税は思わず叫んだ。
「何をなさる、これは乱暴!」
でももうその時には主税の体は、背後からあやめの手によって、横倒しに倒されていた。
「悪巫山戯もいい加減になされ。人が見ましたら笑うでござろう」
主税は寝たままで顔を上げて見た。すぐ眼の上にあるものといえば、衣裳を通して窺われる、ふっくりとしたあやめの胸と、紫の艶めかしい半襟と、それを抜いて延びている滑らかな咽喉と、俯向けている顔とであった。
その顔の何と異様なことは! 眼には涙が溜まり唇は震え、頬の色は蒼褪め果て、まるで全体が怨みと悲しみとで、塗り潰されているようであった。そうしてその顔は主税の眼に近く、五寸と離れずに寄って来ていたので、普通より倍ほどの大きさに見えた。
「情無しのお方! 情知らずのお方!」
椿の花のような唇が開いて、雌蕊のような前歯が現われたかと思うと、咽ぶような訴えるような、あやめの声がそう云った。