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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
「ではもうあやめは居ないというのか」
「へい、この小屋にはおりません」
「つまり席を退いたのだな」
「と云うことになりましょうね」
どうにも云うことが曖昧であった。
それに何とこの辺りは、暗くそうして寂しいことか。
裏木戸に面した反対側は、小借長屋らしく思われたが、どうやら空店になっているらしく、ビッシリ雨戸がとざされていて、火影一筋洩れて来なかった。
洞窟の穴かのように、長方形に空いている木戸口にも、燈というものは点いていなかった。しかし、遥かの小屋の奥から、ぼんやり蝋燭の光が射して来ていて、眼の窪んだ、鼻の尖った、頬骨の立った悪相の持主の、勘兵衛という男を厭らしい存在として、照らし出してはいるのであった。
「昨日まではこの小屋に出ていたはずだが、いつあやめは席を退いたのだ?」
こう主税は又訊いた。
「退いたとも何とも申しちゃアいません。ただ彼女今日はいないので」
「一体あやめはどこに住んでいるのだ?」
「さあそいつは……そいつはどうも……それより一体貴郎様は、どうして何のために彼女を訪ねて、わざわざおいでなすったんで?」
かえって怪訝そうに勘兵衛は訊いた。