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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
伊賀袴を穿いた美少年が、手に持っている龕燈で、時々海鼠壁を照らしたりした。と、その都度壁の面へ、薄赤い光の輪が出来た。
龕燈を持った美少年を先に立て、その後から老人と女猿廻しとが、肩を並べて歩いて行くのであった。
「ねえお爺様……」と女猿廻しは云って、編笠は取って腰へ付け、星のような眼の、高い鼻の、薄くはあるが大型の口の、そういう顔を少し上向け、老人を仰ぎながら審かしそうに続けた。
「なぜたかが一本ばかりの木を、三十年も護って育てましたの?」
「それはわしにも解らないのだよ」
袖無を着、伊賀袴を穿き、自然木の杖を突いた老人は、卯の花のように白い長い髪を、肩の辺りでユサユサ揺りながら、威厳はあるが優しい声で云った。
「なぜたかが一本ばかりのそんな木を、三十年もの間育てたかと、そういう疑いを抱くことよりそんなたかが一本ばかりの木を、迷わず怠らず粗末にせず、三十年もの間護り育てた、そのお方の根気と誠心と、敬虔な心持に感心して、そのお方のお話を承わろうと、そう思った方がいいようだよ」
「ええそれはそうかもしれませんけれど。……で、その木は何の木ですの?」
「榊の木だということだが、松であろうと杉であろうと、柳であろうと柏の木であろうと、そんなことはどうでもよいのだよ」