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けさのゆき

今朝の雪

宮本 百合子

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页

青空文庫

あの四五日後、坂本、急に新潟へ行ったのよ」

坂本はある政治雑誌につとめていた筈であった。

「御主張?」

「勤めがかわったんです。今度は何だか伯父のひっぱりで、軍需会社の社長秘書なんですって」

坂本には、そういう風に時勢への目はしが利くらしいところがあった。

「じゃあなたあのアパートに一人で淋しいのね」

「引越しているのよ、実家の方へ」

もう仕事のつづきにかかっているとき子の敏捷な指先の動きに、ぼんやり視線を休めながら紀子は高い靴の踵を床の上で、グリリグリリとうごかしている。

その様子にも、念入りに化粧した顔にも、自分で自分がはっきりしていないというような表情が漂っている。ふわふわした気質ではあったが、坂本とアパートでエプロン姿でいたとき、こういう雰囲気は紀子の身についていなかった。

紀子はしばらくして、半ば歎息するように、

「でも、本当にあなたがた羨しいわ。望むとおりに行動していらっしゃれるんですもの、やっぱり才能の問題ね」

「ソラ、おはこが出た……」峯子はおだやかな非難をこめて、

「まだそんなこと云っているなんて。――紀子さんこそ行動的で皆をびっくりさせたじゃありませんか」