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けさのゆき

今朝の雪

宮本 百合子

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页

青空文庫

「折角こうやっていられるのに、もったいない。そんなことをしていちゃ」

正二の声や様子には、自分の送別会というような場所から来た人らしい亢奮がちっとものこされていなかった。

峯子は、つつましくおしゃれをして、白い絹のブラウズを着ていた。小さい円いカラーのついた、手頸までつつまれたそのブラウズは、艶のある峯子の頬をいつもひき立てるのであった。その晩は一つも涙がこぼれない代り、若々しい峯子の体を貫いて、火のようなものと悪寒とがかわり番こに走った。

「ふるえるようかい?」

正二は上衣の前をひろげて、それでなおぴったりと峯子を自分に近く、くるむようにした。峯子は一層ふるえ、一層烈しく顔を圧しつけた。

「ね、わたしたち、このまんまでいいと思う? ね、大丈夫?」

年さえ越せば正二の家の事情がややよくなって、二人は結婚することになっていたところだった。このままの自分たちでわかれるということも、そうでないものとなってそして別れるということも、今の場合、峯子には考えて判断する種類のことでなくなった。

正二は、暫らく黙っていたが、やがて、

「僕も考えた」

と云った。

それからすこし自分から離すようにして峯子の顔を長く眺め、力のこもった手のひらで、前髪の方へと峯子の顔を撫でた。