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けさのゆき

今朝の雪

宮本 百合子

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页

青空文庫

それでも、ここは二つ三つずつ順に年のちがう三人の若い女が、雄々しく生きてゆこうとする生活の砦であった。壁には仕事の予定表と並んで、古風だが心持よい風景画の複製が一葉飾られていた。海岸の雨後の景色で、こんな些細なものにも、ここを自分たちの働き場所としている三つの若い心が、生活に求めているものがあらわされているのであった。

ここを根城として今日はじめて雪の日が来た。

さっぱりした水色毛糸のジャケツの上へ、紺ぽい仕事着をつけた背中を反らすようにして、峯子はとき子の方をふりかえった。

とき子も手をやすめて、半ば無意識に、その手をたがいちがい揉むようにしている。

五年の間、機械を対手に練磨されて来た十の指は、ひきしまって、いくらか神経質になっている。短かい休息に、とき子は指をもみながらも、胸を張り、姿勢よくして、顔を真直にあげ、雪を見ている。

無心らしい横顔だけれども、とき子の顔の端正な線はくずれず、いつも様々の感情を内に支えて暮しているひとの面ざしは、消えていない。

物を云おうとしてすこし開いた唇をそっと閉じ、峯子は体を元に戻した。こういう瞬間のとき子の姿全体に流れている寂しさに通じるような静けさは厳粛で、いい加減な自分の声でそれを擾すことが憚かられるのであった。