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けさのゆき
今朝の雪
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页
峯子にしても自分の一生の行手を安心して眺めているのではなかった。
これから先の何年かの後に、必ず無事で正二が還るかどうか。それは、自分の心にある願いや熱い思いでどう云えることでなかった。一生働くものとして自分を考えている方が日々が健やかに過せるし、そういう生活の態度こそ、正二が遠いところで送っている何年かの歳月の内容にふさわしいと思えるのであった。
そういう心のきめかたに立って見まわせばただ月給がとれているというばかりの会社づとめは、単調で機械的であった。その働きかたに、例えば時間のつかいかた一つにしろ、もう少し自分を主人と出来る方法が見つけたいということも自然と思えるのであった。
それに、とき子とすれば、言葉にあらわさない心持もあるだろう。
いつだったか偶然峯子がその銀行に勤めている兄の友だちに会ったとき、とき子の名にふれて、
「その方、学校が御一緒だったのよ」
と云った。
「ああ、いますよ。ここんところが」
と、その青年は手入れのいい瞼へ手をやるようにして、
「ちょっと妙んなってるひとでしょう?」
自分の感情の世界にはかかわりないが、その特徴だけは目に止めているといういいかたをした。