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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

ただ、なんとはなしに、静かな、平和な光りのなかに、思うがままに開かせてきた空想の華を、無残にも引きちぎられた悲しみとも、憤りとも、名状し難い不快な気持であった。

夫は、その夜遂に帰って来なかった。

追憶と夢の一夜が明けた。

時計を見ると九時であった。

漸く床から出た閑枝は、朝の身仕舞もものうく、そこの姿見に顔を写して見た。そして蒼白く細い自分の顔に両手を当てて見た。

そっと襖が開いて女中がはいってきた。

「お目覚めで御座いますか、只今、あの………旦那様からお電話で御座います」

「そう………」

閑枝は立ち上ろうともしなかった。女中は、そこにもじもじとしていたが、

「あのう……、如何いたしましょう」

「そうね………」

力なく電話室に歩を運んだ閑枝が、受話器を耳に当てると、すぐに元気な夫の声が響いた。

「閑さんか、今朝の京都新聞を見たかい、わたしもね、お前の病気を癒してやろうと思ってずいぶん苦労したが、もうこれからは二人共幸福になれるよ、早うお見、今朝の京都新聞の三面を………」

部屋に帰った閑枝は、もの憂い心で新聞の頁を繰った。そしてその三面を見ると、息詰るような驚きに打たれて、我知らず新聞をとりあげた。