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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

閑枝はフト立上った。それは閑枝の心に、黒い湖水が一ぱいに拡がり、芦の葉ずれの音や、ニブい櫓声が聞えてきたからである。自殺、自殺、と、閑枝は唄うように呟いた。机の前に座り直すと、ペンを執った。遺書を書くためである。

書いて了って、それを封筒に納めると、なにか大きな仕事を、なし終ったときのような疲労を感じた。

それから二通の手紙を手に執って見た。

その一通は継母からのものであったが、他の一通は真白な横封筒で、差出人の名は書いてなく、その筆跡にも見覚えはなかった。

私は、あなたに手紙を差上げることを、どれほど躊躇したか知れませぬ。手紙を差上げると云うことは、私と云うものを、あなたの目の前に現わすことに等しいことですから………しかし私にはこの心のよろこびを、ただ一人でジッと抱いて居ることが出来なくなりました。この湖畔の小さな温泉町に、あなたの姿を見ることができたと云う喜びを………。

これから私は、あなたに手紙を差上げることを日課とするかもしれません。それは私のこの心の喜びが、あなたを不快にしないだろうと信ずるからです。お互に病を養うものに取っては、慰めが一番大切だと思いますから………。