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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

それは到底、あなたの前に、私と云うものを現すことが、出来ないからです。この頃では、あなたの姿を見なかった方が、幸福であったようにさえ思われます。

私は今一枚の画を書いています。その画が出来上りましたら、あなたのお目にかけてそれを最後に、あなたへの手紙を再び書くまいと決心しています。

この手紙を読んだ閑枝は、深い淋しさを感じた。それは愛とか恋とか云うものとは別な、なんとも訳のわからぬ淋しさであった。何時の間にか閑枝の心に描かれた未知の手紙の男は、次第にその形をはっきりと現わして、閑枝の心に深く刻みつけられているのであった。

日が暮れていた。閑枝はまたしても窓越しに柳の葉の暗い茂みを瞶めていた。

(四)

閑枝の京へ帰る日が次第に近くなってきた。それは病気も多少は快くなっているし、こう云う淋しいところに、いつまでも一人で置くことは、却て本人の気を憂鬱にすると云う、兄の注意もあったからである。

京都へ帰ることになっても、閑枝は別に嬉しいとは思わず、またこの土地に大して執着も持って居なかったが、ただ無名の手紙の主が、何人であるかと云うことだけは、知りたいと思った。