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なかなかしなぬあいつ

仲々死なぬ彼奴

海野 十三

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,216 字 · 18 页

青空文庫

(叔父が帰って来た。大急ぎでとってかえしたのだ。とうとう自分の自殺を嗅ぎつけたのだ。この方法は失敗だッ)

喜助は突嗟に、そう考えてしまった。こうなる上は仕方がない。叔父たちに自殺を押し止められるよりは、電車に轢れた方がましだ、と思った喜助は、いきなり叔父を土間の上につき転がすと、裏口を開いて、真暗な往来へ飛び出した。

踏切の方へ! 線路へ!

其の日の斎場の光景は、まことに厳粛を極めたものだった。何しろ、実力に於て首相格である大熊老人の葬儀のことであるから、上はA総理大臣をはじめとし、閣僚全部を筆頭に、朝野の名士という名士、その数無慮五百名、それに加えて、故人の徳を慕う民衆の参列者が一万人に近いという話であった。斎場の正面のずっと高い石の壇上には、大熊老人の亡骸を安置しその下には、各名士から贈られた真榊や、花筒や、花環がギュウギュウ言うほど、おし並べられ、まるでアマゾン河畔の大森林を此処に移したかの感があった。棺の前には、薄紫の香煙が、濛々と館の内部を垂れこめていた。右の榊の前には、各大臣、議長、将官などが眩ゆく整列し、左の榊の前には例の大熊老人の親戚の一団が、今日の光栄に得意然たる面持で、目白押しに並んでいた。