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なかなかしなぬあいつ
仲々死なぬ彼奴
海野 十三
「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,216 字 · 18 页
彼は小石川の御殿町にある大熊邸門前の花久の二階から、毎朝テクテク歩いて、二十町もある理化学研究所に通った。夜は、毎晩のように老人の許を訪い、彼がやって居る研究の話や、学界がどんな問題を持ってどんな方向へ動いてゆくかなど、老人には至極わかり憎い話をして聞かせるのであったが、老人は一向閉口しないで其の判らない話のつづきを聞きたがった。
大熊老人も、喜助少年も、こうして毎日を至極幸福に平和に暮していた。それは金銭問題を離れた、神か大愚かというような清浄な生活だった。このような泪ぐましい情景は、末永く二人の上に止っているように誰しもが祈りたいところであるが、筆者は文章を売るため心を鬼にして、ここに突如として降って湧いたようなカタストロフィーについて述べなければならない。
二
日頃元気な大熊老人が、一週間ほどこっちへ、どうも何だか気分がすぐれないと云って、床についた。
老人が病床に横わると、即日といわず、即時から親戚の者共が大騒ぎを始めた。花を毎日取りかえる者があり、銀座裏の上方料理のうまい家から、凝りに凝った料理を作らせては老人にとどけるものもあった。