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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

岡本綺堂『伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:平家蟹、青蛙神、人狼、五色蟹、木曽の怪物、蟹満寺縁起、怪談劇、小坂部姫、小坂部伝説、江戸の化物。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 页

青空文庫

田宮の胸の上にこの蟹が登っていたことを思い出して、遠泉君はまたいやな心持になった。彼はそこらにある小石を拾って、蟹の甲を眼がけて投げ付けようとすると、その手は何者かに掴まれた。

「あ、およしなさい。祟りがある。」

おどろいて振り返ると、自分のそばには六十ばかりの漁師らしい老人が立っていた。

「あの蟹はなんというんですか。」と、遠泉君は訊いた。

「あばた蟹といいますよ。」

美しい蟹に痘痕の名はふさわしくないと遠泉君は思っていると、老いたる漁師はその蟹の由来を説明した。

今から千年ほども昔の話である。ここらに大あばたの非常に醜い女があった。あばたの女は若い男に恋して捨てられたので、かれは自分の醜いのをひどく怨んで、来世は美しい女に生まれ代って来るといって、この海岸から身を投げて死んだ。かれは果たして美しく生まれかわったが、人間にはなり得ないで蟹となった。あばた蟹の名はそれから起こったのである。そうして、この蟹に手を触れたものには祟りがあると言い伝えられて、いたずらの子供ですらも捕えるのを恐れていた。殊に嫁入り前の若い女がこの蟹を見ると、一生縁遠いか、あるいはその恋に破れるか、必ず何かの禍いをうけると恐れられていた。