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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

「呼び返すがいいだよ」

杢助はふうと煙草の輪を吹いた。

「罰なんぞどうでも、自分のにんきの高いのを自分で見ているのは悪い気持じゃねえし、それについて蔭口をきく者もありゃしねえだ、ただおまえさん独りでいろいろ感ぐってるだけだに」

「――こうするか」

飯篠老はふと杢助の方を見た。杢助の言葉は甚しく彼の自尊心を傷つけた。だが飯篠老人は聞かないふりをした。少なくともそれを黙殺し、そうして云った。

「その方に頼みがある」

「――へえ、おらにかえ」

「その方わしの身代りになってくれ」

「おうれ、また」

「こういうわけだ」

飯篠老人は坐り直した。

「いま見たように、修業者はどこまでもわしを追って来る、どんな処へ隠れても、かれらはきっと捜し当てるだろう、そこでだ、いまその方が杉谷の庭掃きをしていたというのを聞いて思いついたのであるが、そのほうが長威斎に成って杉谷におれば、わしはもう修業者につけまわされることはない、安心して好きなところへゆけるし、煙霞の中で静かに行い澄ますこともできる」

「そらだめだよ」

杢助はきせるをはたいた。

「それあ悪い思案じゃねえが、だめだよ」

「どこがどうだめだというのか」