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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

もしもこれで一之木にゆかれたら、もう万事おしまいである。一之木を出てゆかせてはならなかった。一之木に「会得」をさせてはならない、少なくともあとの修業者が補充されるまでは、……杢助は言語動作に気をつけた、そんな努力をするのは生れて初めてのことであった。しかし、こんどはまったく予期しない方面から、予想外の災難がふりかかってきた。

九月重陽の前日のことであったが、草庵の庭へ、とつぜん十五人ばかりの侍たちが入って来た。かれらはみな小具足を着け、五人は槍、五人は鉄砲を持ち、そうして四人が輿を担いでいた。かれらはずかずかと庭へ入って来て、先頭にいる隊長らしい一人(彼だけは腹巻を着けていた)が、しわがれたような大きな声でどなった。

「飯篠長威斎先生の御草庵とうけたまわって推参いたした、てまえは前田家の尾井幾兵衛と申す、ぶしつけながら先生に御意を得たい」

三之木は榧の下で木剣と睨みあっていた。杢助は一之木に肩を揉ませていた。三之木は睨みあいをやめ、一之木は肩揉みをやめた。杢助はこれは唯事ではないと直感し、

「違う違う、大ちげえだ」

と慌てて手を振った。

「此処にゃそんな者はいねえだ、それやおまえさんの聞き間違えだよ」