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さど

佐渡

太宰 治

「公論」1941(昭和16)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,270 字 · 23 页

青空文庫

見物の心理とは、そんなものではなかろうか。大袈裟に飛躍すれば、この人生でさえも、そんなものだと言えるかも知れない。見てしまった空虚、見なかった焦躁不安、それだけの連続で、三十歳四十歳五十歳と、精一ぱいあくせく暮して、死ぬるのではなかろうか。私は、もうそろそろ佐渡をあきらめた。明朝、出帆の船で帰ろうと思った。あれこれ考えながら、白く乾いた相川のまちを鞄かかえて歩いていたが、どうも我ながら形がつかぬ。白昼の相川のまちは、人ひとり通らぬ。まちは知らぬ振りをしている。何しに来た、という顔をしている。ひっそりという感じでもない。がらんとしている。ここは見物に来るところでない。まちは私に見むきもせず、自分だけの生活をさっさとしている。私は、のそのそ歩いている自分を、いよいよ恥ずかしく思った。

出来れば、きょうすぐ東京へ帰りたかった。けれども、汽船の都合が悪い。明朝、八時に夷港から、おけさ丸が出る。それまで待たなければ、いけない。佐渡には、もう一つ、小木という町もある筈だ。けれども、小木までには、またバスで、三時間ちかくかかるらしい。もう、どこへも行きたくなかった。