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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
その間の出来事なのだ。
弘一君は陸軍省軍務局に重要な地位を占めている、結城少将の息子で、父の邸が鎌倉の少し向うの海近くにあって、夏休みを過すには持って来いの場所だったからである。
三人はその年大学を出たばかりの同窓であった。結城君は英文科、私と甲田君とは経済科であったが、高等学校時代同じ部屋に寝たことがあるので、科は違っても、非常に親しい遊び仲間であった。
私達には、愈々呑気な学生生活にお別れの夏であった。甲田君は九月から東京のある商事会社へ勤めることになっていたし、弘一君と私とは兵隊にとられて、年末には入営である。何れにしても、私達は来年からはこんな自由な気持の夏休みを再び味えぬ身の上であった。そこで、この夏こそは心残りのないように、充分遊び暮そうというので、弘一君の誘いに応じたのである。
弘一君は一人息子なので、広い邸を我物顔に、贅沢三昧に暮していた。親爺は陸軍少将だけれど、先祖がある大名の重臣だったので、彼の家は却々のお金持ちである。随ってお客様の私達も居心地が悪くなかった。そこへ持って来て、結城家には、私達の遊び友達になってくれる、一人の美しい女性がいた。