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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

当時の私達にとって「金」というものは特別の意味を持っていた。弘一君を撃った賊は、金製品に限って盗み去ったのである。彼は波多野氏の所謂「黄金蒐集狂」なのだ。その犯罪当夜結城邸に居合わせたえたいの知れぬ人物赤井さんが、今金ピカの姿をして私の前から逃げ様とした。実に異様な事柄である。まさか赤井さんが犯人ではなかろうが、併し、此間からの不思議な挙動といい、この金ピカ姿と云い、何とも合点の出来ないことだ。

私達は双方奥歯に物のはさまった形で、言葉少なに停車場へ歩いたが、私は前々から気にかかりながら尋ね兼ねていたことを、思い切って尋ねて見た。

「先夜ピストルの音がした少し前から、あなたは二階の客間にいらっしゃらなかった様ですが、あの時あなたはどこにお出でなすったのですか」

「私は酒に弱いので」赤井さんは待構えていた様に答えた。「少し苦しくなったものですから、外の空気を吸いたくもあったし、丁度煙草が切れたので、それを自分で買いに出かけていたのですよ」

「そうでしたか。それじゃピストルの音はお聞きなさらなかった訳ですね」

「エエ」

と、云う様なことで、私達は又プッツリ黙り込んでしまったが、暫く歩くと、今度は赤井さんが妙なことを云い出した。