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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

私は彼の論理一点張りが不服であった。

「イヤ、闇夜だったからこそ、あんな足跡になったのだ。君は少し見当違いをしているようだが、僕の云う意味はね、ただ通った道が違っていたということではないのだよ。二つの足跡が故意に(確に故意にだ)離してあったということはね、賊が自分の来た時の足跡を踏むまいとしたからではないかと、僕は思うのだ。それには、闇夜だから、用心深く余程離れた所を歩かなくてはならない。ね、そこに意味があるのだよ。念の為に波多野さんに、往き帰りの足跡の重なった所はなかったかと確めて見たが、無論一ヶ所もないということだった。あの闇夜に、同じ二点間を歩いた往き帰りの足跡が、一つも重なっていなかったなんて、偶然にしては少し変だとは思わないかね」

「成程、そう云えば少し変だね。併し何故賊が足跡を重ねまいと、そんな苦労をしなければならなかったのだね。凡そ意味がないじゃないか」

「イヤ、あるんだよ。が、まあその次を考えて見よう」

弘一君はシャーロック・ホームズみたいに、結論を隠したがる。これも彼の日頃の癖である。

顔は青ざめ、息使いは荒く、嵩だかく繃帯を巻きつけた患部が、まだ痛むと見えて、時々眉をしかめる様な状態でいて、探偵談となると、弘一君は特殊の情熱を示すのだ。