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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
君はあれを知らなかったのかなあ」
「あれって云うと?」
「これでもう疑う余地はなくなった。恐ろしいことだ。……あいつがそんなことを。……」
弘一君は私の問に答えようともせず、ひどく昂奮して独言を云っている。彼は確に犯人を悟ったのだ。「あいつ」とは一体誰のことなんだろう。で、私がそれを聞訊そうとしていた時、ドアにノックの音が聞こえた。
波多野警部が見舞に来たのだ。入院以来何度目かの御見舞である。彼は結城家に対して職務以外の好意を持っているのだ。
「大分元気の様ですね」
「エエ、お蔭様で順調に行ってます」
と、一通りの挨拶がすむと、警部は少し改まって、
「夜分やって来たのは、実は急いで御知らせしたいことが起ったものだから」
と、ジロジロ私を見る。
「御存知の松村君です。僕の親しい友人ですからお構いなく」
弘一君が促すと、
「イヤ、秘密という訳ではないのだから、ではお話しますが。犯人が分ったのです。今日午後逮捕しました」
「エ、犯人が捕縛されましたか」
弘一君と私とが同時に叫んだ。
「して、それは何者です」
「結城さん。あなた琴野三右衛門というあの辺の地主を知っていますか」