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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
さっき君が、赤井さんが池に落ちたと話した時には、サテはもうそこへ気がついたかと、びっくりした程だよ」と語った。
さて、以下の事柄は、直接見聞した訳ではないが、便宜上順序を追って記して置くと、池から出た品物の内、例の靴足袋は、浮上ることを恐れてか、金の灰皿と一緒にハンカチに包んで沈めてあった。それが何と甲田伸太郎のハンカチに相違ないことが分ったのだ。というのは、そのハンカチの端にS・Kと彼の頭字が墨で書き込んであったからだ。彼もまさか池の底の品物が取出され様とは思わず、ハンカチの目印まで注意が行き届かなんだのであろう。
翌日甲田伸太郎が殺人被疑者として引致されたのは申すまでもない。だが、彼はあんなおとなし相な様子でいて、芯は非常な強情者であった。いかに責められても仲々実を吐かぬのだ。では、事件の直前どこにいたかと問いつめられると、彼は黙り込んで何も云わぬ。つまりピストル発射までのアリバイも成立しないのだ。最初は頬を冷す為に玄関に出ていたなどと申立てたけれど、それは結城家の書生の証言で、忽ち覆えされてしまった。あの晩一人の書生はずっと玄関脇の部屋にいたのだ。