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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
彼も騒ぎを聞いて、我々より少し遅れて書斎へ駈けつけたのだが、這入って来るなり、何を思ったのか、弘一君のまわりを囲んでいた私達のうしろを、例の開いた窓の方へ走って行って、その窓際へペチャンと坐ってしまった。騒ぎの最中で誰も老僕の挙動など注意していなかったけれど、私はふとそれを見て、親爺気でも違ったのではないかと驚いた。彼はそうして、一同の立騒ぐのをキョロキョロ見廻しながら、いつまでも行儀よく坐っていた。まさか腰が抜けた訳でもあるまいに。
そうこうする内に、医者がやって来る。間もなく鎌倉の警察署から、司法主任の波多野警部が部下を連れて到着した。
弘一君は母夫人と志摩子さんが附添って、担架で鎌倉外科病院へ運ばれた。その時分には意識を取戻していたけれど、気の弱い彼は苦痛と恐怖の為に、赤ん坊みたいに顔をしかめ、ポロポロと涙をこぼして、半狂乱の体で泣きわめいていたので、波多野警部が賊の風体を尋ねても、無論返事なぞ出来なかった。彼の傷は命にかかわる程ではなかったけれど、足首の骨をグチャグチャに砕いた、仲々の重傷であった。
取調の結果、この兇行は盗賊の仕業であることが明かになった。