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よゆうのことなど
余裕のことなど
伊丹 万作
「新映画」1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,707 字 · 8 页
するとどうしたことか、いよいよおしまいごろになつてまさしく生食にまぎれもない馬が出て来たのだ。
「馬をも人をもあたりを払つて食ひければ」と書いてあるくらいだから、何しろ手のつけられない悍馬であつたことは想像に難くない。首を反つくりかえらして口には雪のような泡を噛み、怒つた蟷螂のように前肢を挙げ、必死になつて轡にぶら下る雑兵四、五人を引きずるようにして出て来た。
源太は思わず目をこすつた。いくら目をこすつてもこれだけの馬が生食のほかにあるわけがない。
「こらこら、奴! それはだれの馬だ」
「佐々木殿の馬でございます」
「佐々木は三郎か、四郎か」
「四郎高綱殿」
これを聞くと源太は思わずうなつて、
「うーむ、ねつたい!」と言つた。このねつたいがたまらなくいい。正に直情径行の見本のごとき観がある。このねつたいを衆人環視の中ではばからずに言える源太、緋縅か紫裾濃かは知らぬが、ともかくも一方の大将として美々しい鎧兜に威儀を正しながら、地位だの格式だのとけちけちした不純物にいささかもわずらわされることなく平気で天真を流露させることのできる源太。このような源太に対する讃嘆の情を私はどう説明していいかを知らない。