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さくひんのテーマとじんせいのテーマ

作品のテーマと人生のテーマ

宮本 百合子

「早稲田大学新聞」1936(昭和11)年9月30日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,492 字 · 7 页

青空文庫

する悪計と闘っている。魚住もある時期この錯雑した事情にまけて、受動的な頬杖をついたような気分で暮すが、日頃目をかけていた黒須千太郎をこめる集団脱走事件がおこり、折からの大雪で凍死するにきまっている千太郎を救おうという情熱によって振い立ち、情熱をもって一事を敢行しようとする人間の精神的高揚をよろこぶ感情の表現で、一篇の小説を終っているのである。

小説としてのできばえからいえば、この作品は作者自身にとっても自信ある作とはいえないであろう。胤子の感情の必然性も十分描かれていないし、全体が説明的で、それもいきいきと納得ゆくように一人の人間の内的推移の跡を示しているとはいえないのである。

作者の意企は、魚住を中心として、感化院の教師間の生活葛藤を描くところにあったことは明瞭なのであるが、少くとも黒須千太郎と魚住との人間的交渉がもう一歩ふみ込んで書かれていたら、最後の魚住の情熱的な雪中突進の動機も、読者の心にもっと真実性をともなって同感をよびさまし得たであろう。

私はこの小説の作者が、感化院の園児の脱走という、最も特徴的な、心理的な生活の面を、もっと慎重に突き入って注目しなかったことを残念に思うのである。