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かじつ

佳日

太宰 治

「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页

青空文庫

」私は、少し嘘を言った。

「はあ、」小坂吉之助氏は平気である。「よろしゅうございます。こちらで、なんとか致しましょう。おい、」と二番目の姉さんを小声で呼んで、「お前のところに、モオニングがあったろう。電話をかけて直ぐ持って来させるように。」

「いやよ。」言下に拒否した。顔を少し赤くして、くつくつ笑っている。「お留守のあいだは、いやよ。」

「なんだ、」小坂氏はちょっとまごついて、「何を言うのです。他人に貸すわけじゃあるまいし。」

「お父さん、」と上の姉さんも笑いながら、「そりゃ当り前よ。お父さんには、わからない。お帰りの日までは、どんなに親しい人にだって手をふれさせずに、なんでも、そっくりそのままにして置かなければ。」

「ばかな事を。」小坂氏は、複雑に笑った。

「ばかじゃないわ。」そう呟いて一瞬、上の姉さんは堪えがたいくらい厳粛な顔をした。すぐにまた笑い出して、「うちのモオニングを貸してあげましょう。少しナフタリン臭くなっているかも知れませんけど、ね、」と私のほうに向き直って言って、「うちのひとには、もう、なんにも要らないのです。モオニングが、こんな晴れの日にお役に立ったら、うちのひとだって、よろこぶ事でございましょう。