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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

わしは足がすべって前にのめりそうな気がした。しかもわしはそれにほとんど抵抗する気力を欠いていた。もしあの時康頼殿が、とぼとぼと波打ちぎわを歩いて、首をたれて考えに沈みながら、わしのほうへ、おそらくわしのいることも知らずに、近づいてこられるのを見なかったら、わしはどうなっていたかわからない。その姿はわしに何とも言えない、愛と憐憫の情を起こさせた。同悲の情をわきたたせた。わしは涙がこぼれた。わしはこのさびしき友をなぐさめるためだけにでも、生きていたいと思って、走りだした。

康頼 (涙ぐむ)わしはあなたの姿に気がついた時ふるえた。わしはあなたの心をすぐ知った。今あなたがいかなる危険な状態にいるかを直覚した。そしてあなたを抱きとめに走ろうとする刹那、わしはあなたが両手を広げて涙をいっぱい目にためて、わしのほうに走ってくるのを見た。

成経 わしらは抱き合って泣いたのだ。

間。

俊寛 わしはさびしい気がしてならない。昨夜から変に心細い気がしてならない。こんな気のすることはこの島に来てからはじめてだ。不幸が近づいてくるような……

成経 白帆だ! (急に元気づく)あの姿がどんなに希望をわしに与えてくれることか。