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しゅんかん
俊寛
倉田 百三
「新小説」1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页
いなかの船にはあんなのはない。(波の中に夢中でつかり、息をこらして船を見る)
成経 (康頼のそばに走る)旗だ! たしかに赤い旗が見える。平氏の官船だ。
康頼 迎えの船だ!
成経 (夢中に叫ぶ)追い風よ。吹け。吹け。吹け。
康頼 まっすぐに、こぎつけよ。一刻も早く、この岸に! わしらはここにいる。ここの岸に立っている。餓鬼のようにやせて! (急にむせび泣く)わしはどんなに待ったろう。
成経 あゝ。長い長い間だった。
康頼 神々よ。きょうの恵みはわが子孫に書きのこして伝えられましょう。
成経 わしの心がこのよろこびに持ちこたえられるように!
沖の船より銅鑼の音ひびく。
康頼 合い図だ! 船着き場へ! (はせ去る)
成経 (無言にて康頼のあとを追うてはせ去る)
俊寛 (前のところに不安そうに立ったまま)あの船は陰府から来たように見える。(心の内にさす不吉の陰を払いのけるように首を振る) わしはばかげた妄想に悩まされているかもしれないぞ。そうであってくれ。そうであってくれ。わしのこの恐ろしい考えには少なくとも根拠はないのだ。たしかに根拠はないのだ。ただわしにそういう不安な気が何となくするというのにすぎない。