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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

俊寛 わしはあなたに要求する気はない。ただあなたの友情にすがって折り入って頼む。なにとぞわし一人をこの島に残さないでください。

成経 わしは一度だけ母に会いたい。妻に会ってその苦しみをねぎろうてやりたい。一生に、も一度だけわしの子供が抱きたい。

俊寛 それはみなわしの願うところだ。わしの朝夕の夢だ。今その夢を実にすることのできるあなたの幸福と、この荒れた島にただ一人残る自分の運命とを較べるのは堪えがたい。わしの恐ろしい運命を考えてください。

成経 わしはただ一度だけ故郷の土が踏みたい。ただ一度だけ家族と会えばまたこの島に帰ってもよい。だがただ一度だけは。

俊寛 わしを助けてくれ。

成経 わしは苦しい。何も考えられない。わしの心は顛倒するようだ。

俊寛 あなたはどうしても帰る気か、誓いを破り、わしを捨てて。

成経 (苦しそうに沈黙す)

俊寛 きょうからわしはあなたを名誉ある武士とは思いませぬぞ。困苦をともにした友に危難の迫った場合、無慈悲に見捨て去るとは、実に見下げた人だ。八幡のたたりを恐れられい。わしはいうがわれわれがこんなみじめな境遇に落ちたのも、もとはあなたの父上のためだ。