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しゅんかん
俊寛
倉田 百三
「新小説」1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页
康頼 わしはこの間も権現様に通夜をして祈りました。そして祈り疲れてうとうとしました。するとわしは不思議な夢を見たのです。沖のほうから潮風に吹かれて木の葉が二枚ひらひらと飛んできて、わしの袖にかかりました。それを手に取ってみると御熊野の山にたくさんある栴の葉なのです。よく見るとその葉に歌が一首書いてあるのです。「ちはやふる神に祈りのしげければ、などかみやこへかえらざるべき」とありあり読みました。あゝありがたいと思ってその栴の葉をいただいて目がさめたのです。
成経 それはあなたがいつも都へ帰りたい帰りたいと思っているから、そんな夢を見たのでしょう。
康頼 しかしありありと歌まで覚えているのです。霊夢に相違ありません。たとえそうでなくっても、わしはそうと信じたいのです。
成経 それであの卒都婆流しを思いついたのですね。
康頼 (さびしそうに)はい。
間。
成経 俊寛殿はどこへ行きましたか。
康頼 きょうも熊野権現にお参りなされました。
成経 あの人は神など拝むような人ではなかったが。
康頼 人間は苦しい目にあうと神を拝むようになるものですよ。今でも時々こんなことをしたって何になるなどと自暴になってわしにあたったり、それかと思うと絶望したように、ため息をついたりなさいます。