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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

女中に聞くと、昨夜三人が出掛けた後でこっそり外出されましたとのことで、てっきり吉原か玉の井辺りへ出掛けたのだろうと推測された。果して、権右衛門は眠そうな照れ臭そうな顔で帰って来た。皆んなと一緒に行けば権右衛門が勘定を払わねばならぬ、それを嫌ってこそ/\と一人で安女郎を買いに行ったのであろうと、三人の意見だった。

就中伝三郎はこの意見を強調した。というのはその頃こんなことがあった。伝三郎が権右衛門から借りた九百円の金をいつまでも返済せず、うやむやにしていた。権右衛門は伝三郎が近頃七百円もする土佐犬を飼い、おまけに闘犬に勝ったといっては犬の鎖や土俵入りの横綱に大枚の金を使ってるときいて業を煮やし、内容証明書を伝三郎に送った。伝三郎は蒼くなって、電話の名儀を他人名儀にしたりして権右衛門の差押えにそなえた。

ある日、権右衛門は高利貸の如き折鞄をもって伝三郎の家へやって来た。丁度伝三郎は人眼に立つ所、即ち家の前で土佐犬の身体を洗ってやっていた。「馬鹿奴が!」権右衛門はバケツを蹴り倒した。愛犬は権右衛門にかみつこうとした。権右衛門は犬の吠声を後に逃げて帰った。