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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

その為には、どんな苦労もいとわぬし、また贅沢もせぬ積りだ。わしには四人の弟と二人の妹がある。一家の兄としてわしはこの目的を抱いた。お前もこのわしの目的をよくのみこんで、どうか、わしが目的を遂げられる様気張ってくれ」

その時彼女は両手をついて、

「よく言ってくれました。どうか、あなたはその目的を遂げて、立派に男として成功して下さい。私も児子家に来たからは、及ばずながら児子家の家長としてのあなたの目的をお助けいたします」

といったと、その後、屡々義妹たちに話した。無論、これはその時の二人の言葉通りではない。が、人々に話すにはこの様にいわば文章化さす方が少くとも政江には好ましい。

だから、今も、政江が、部屋に戻り権右衛門と並んで寝ながら、ふとその時のことを回想した時、頭に浮ぶのは、この文章化した言葉であって、決してごた/\した紀州訛のある方ではなかった。「十万円貯めてから後百万円出来るまでより、六百円の金から十万円こしらえる迄が苦労やった」とその後、屡々政江が人に語るその十万円貯める迄の苦心を彼女は回想した。ふと、権右衛門を見ると、彼も何か回想に耽っている様だった。