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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

「あんさんらは、何でんナ、青切符が無料でおますよって、旅する云うても結構でおますナ」と言ったことがある。代議士でないとすれば崎山といえど汽車の切符が無料である筈はない故、政江の云い方は随分早まったことになる。その時崎山某は、

「いやあ、之は恐縮ですなあ」と苦笑したということだ。確なことを面と向って訊くのも妙な工合だという遠慮から、崎山の身分に就は総て曖昧のまゝだった。どうでも良かったからである。「東京の人は金も無い癖にえらい威張ったはる」という印象で簡単に片がつくのだ。重要なのは崎山の持って来た話だけだ。――政江の長女千満子の縁談であろうと人々はにらんだ。その通りだった。政江は極秘にしていたが、人々には、今度の縁談の相手が、某伯爵家の次男で、東京帝大出、高文もパスし、現在内務省計画課の官吏であると、すっかり調べあがっていた。この縁談が成立すれば政江は伯爵家の何かに当る訳だ。「私」が「私」に変り、耳隠しがパアマネントウェーブに成るのも満更不思議ではない――と人々は思い当ったのである。

それにしても不思議なのは、政江が誰にもこの話を云い触らさず、伯爵のハの字もいわなかったことだ。